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2025.12.10

地域を結び、「暮らし」を支える作業療法士—全国の先進実践から見える可能性

はじめに

日本は急速な少子高齢化の進行により、病院から地域へのサービスの重心が移りつつあります。特に、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けるためには、医療や介護の“施設内”ではなく、住まいや地域の“日常生活”に根ざした支援が重要です。こうした場面で力を発揮できるのが、作業療法士(OT)です。

OTは、単に「機能を回復させる専門職」にとどまらず、住民の自立やQOL(生活の質)を支える“生活支援のデザイナー”として、地域の中で大きな役割を果たしています。ここでは、施設外の現場で多彩な視点から活躍するOTの全国的な実例を紹介し、地域展開のヒントを探ってみましょう。

地域における課題

在宅復帰後の再入院、閉じこもり、認知症の早期対応の遅れ、社会参与の減少——これらは地域で共通する課題です。施設でのリハビリは有効であっても、生活環境や役割と結びついて初めて“その人らしい暮らし”が形づくられます。また、住民同士の支え合いや活動が活発な地域ほど、介護負担の軽減につながる傾向があります。OTは、こうした“暮らし”や“つながり”をリハビリの対象ととらえ、地域の生活行動そのものに介入できる専門職です。


1. 「通いの場」での予防的な支援

市区町村が進める「通いの場」では、住民主体の集まりを通じて閉じこもりや転倒を予防しようとする試みが全国に広がっています。ここでOTは、集いそのものを“活動(Occupation)”として設計し直し、「転倒予防」や「姿勢調整」「手作業」などを生活に直結させたプログラムを提供します。

国の「地域リハ活動支援事業」では、こうした通いの場や介護予防教室へリハ専門職を派遣する仕組みが整えられており、OTは活動内容の標準化や効果測定に関与できます。住民主体の場にOTが加わることで、活動の質が向上し、継続性も高まるのです。


2. 認知症の早期対応および「認知症カフェ」

認知症は早期対応が重要です。「初期集中支援チーム」では、数ヶ月の期間で多職種が協働し、本人と家族を支援します。ここでOTは、生活行為のアセスメント、住環境の調整、家族への具体的アドバイスを行い、日常生活の困難を早期に和らげる役割を担います。

また、全国に広がる「認知症カフェ」では、OTが運営や企画に関わり、当事者や家族が自然に交流できる場づくりを進めています。京都や佐賀の事例では、専門用語を排し、暮らしの視点から参加を促す工夫がなされており、孤立防止や地域理解の促進につながっています。


3. 地域ケア会議・総合事業への参画

地域ケア会議は、多職種が集まって住民の生活課題を共有し解決策を検討する場です。OTは「ADL/IADLの詰まり」を見つけ、自助具や住環境調整を提案するなど、生活の具体的な改善策を提示します。

さらに、介護保険制度の「総合事業」では、通所や訪問、生活支援コーディネーターなど多彩な仕組みがあり、OTはその評価や仕組みづくりに関わります。これにより、より住民の生活に即した支援が可能になっています。


4. 訪問OTの地域密着化

訪問リハは従来、医学的リハの延長として提供されることが多かったのですが、近年は“地域文化と結びついた介入”が進んでいます。東京都台東区では、訪問OTが地域祭礼に参加し、住民との信頼関係を築きながら生活文脈に根ざした支援を実践しています。これはOTを「支援者」であると同時に「地域の一員」として位置づける象徴的な事例です。


5. 広域支援センターや災害時のリハ支援

県単位で設置される「広域支援センター」では、OTが相談・研修・派遣を通じて自治体や包括支援センターをサポートしています。OTが少ない自治体でも専門的支援が受けられるようになり、地域格差の是正に貢献しています。

また、災害時には、避難所での生活支援や廃用予防にOTが参画する事例も増えています。埼玉県の活動では、医師会とOT/PT/STが連携し、被災者の生活行為を守るための取り組みが展開されました。


6. MTDLPの地域での活用

MTDLP(生活行為向上マネジメント)は、「やりたい生活行為」を起点に、目標設定から環境調整、モニタリングまでを行う仕組みです。施設だけでなく、通いの場やカフェ、訪問支援など地域の現場でも共通言語として活用できます。生活者視点に沿った支援の標準化に寄与し、多職種間の連携にも役立っています。


作業療法士の職域変化:過去から現在へ

作業療法士が地域で活動することは、いまや珍しい話ではありません。その流れは2000年の介護保険制度創設から始まり、2012年前後の地域包括ケアシステム政策化で加速しました。

  • 2000年代前半:訪問・通所リハで病院外へ進出(病院リハの延長線上)
  • 2012〜2017年頃:地域ケア会議や生活支援コーディネーターへの参画(仕組みづくりへの関与)
  • 2018年以降:総合事業や認知症施策への本格参画(地域でOTを見ることが当たり前に)
  • 直近3〜5年:コロナ禍・災害対応・ICT活用が進み、地域支援の“中身”が大きく進化

つまり「病院から地域へ」という流れ自体は10年以上前から続いていますが、直近では「ICT」「住民主体活動の支援」「災害・感染症対応」といった新しい職域の拡張が生まれています。今後もOTの役割は、暮らしの変化に応じて進化していくでしょう。


まとめ

全国の事例を通じて明らかになるのは、施設の外に出たOTが「暮らし」と「支え」をつなぐ架け橋になっていることです。通いの場の設計、認知症支援、地域ケア会議への参画、訪問の文脈化、災害対応、MTDLPによる標準化……そのすべてに共通するのは、「暮らすことを尊び、支える」視点です。

OTが地域に開かれることで、介護予防や多職種連携の質が高まり、「医療」「福祉」にとどまらず、「暮らし」としての豊かさを創り出すことが可能になります。まさに、作業療法士は“地域の暮らしを支える専門職”として今後さらに重要性を増していくのです。


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