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2025.11.28

地域医療における介護士の専門性と活躍の可能性

目次

介護士の役割を「地域の視点」で捉え直す

介護士という職種は、「生活の支援を行う人」として広く知られています。しかし近年、介護現場を取り巻く状況は大きく変化しました。利用者は施設の中だけで暮らしているのではなく、病院・在宅・地域資源を行き来しながら生活を続けています。つまり介護士の仕事も、施設内に閉じたものではなく、地域医療・地域包括ケアの“回線”の中で価値を発揮する専門職へと広がっているのです。

では、介護士にしかできない専門性とは何でしょうか。そしてそれを生かして地域の中でどのように活躍できるのでしょうか。本稿では、6つの専門性を出発点に、具体的な地域での実践を整理します。


1|日常生活動作(ADL/IADL)の直接介助という専門性

専門性

介護士は食事、排泄、入浴、更衣、移動といった基本的な生活動作を日常的に直接介助する唯一の職種です。医師や看護師は診療や処置を担い、リハ職は訓練を計画しますが、それを日々の暮らしに実装し続けるのは介護士です。

地域での活躍

  • 退院直後の生活を支えきれるかどうかは介護士の介助力にかかっています。
  • 医療やリハの指示を安全に生活場面へ落とし込むのは介護士の役割です。
  • 例:嚥下が不安定な方に対し、医師やSTが提案した食形態を実際にどう提供するか、介護士が工夫して調整します。

2|生活場面を断続的に観察できる専門性

専門性

介護士はサービス形態に応じて、朝の支度・食事・入浴・夜間ケアなど多様な生活場面に断続的に立ち会うことができます。そのため、生活リズムや小さな変化を時系列で把握できるのが強みです。

地域での活躍

  • 医療職が限られた時間でしか関われないのに対し、介護士は**“普段との違い”を発見できるセンサー**です。
  • 例:食事時間が徐々に延びている、夜間の安否確認で反応が鈍いなど。
  • これらは病院の検査に表れない情報で、医師や看護師にとって診断や判断を補う重要な生活データになります。

3|BPSD対応(認知症ケア)の専門性

専門性

認知症に伴う行動・心理症状(BPSD:徘徊・幻覚・興奮など)に対し、介護士は**非薬物的ケア(環境調整・声かけ・アクティビティ支援)**を駆使して日常生活を守ります。

地域での活躍

  • 地域包括ケアで最も課題の多いのが認知症支援です。
  • 医師は薬を調整できますが、「薬を減らしても生活を安定させる」ことは介護士の技術にかかっています。
  • 例:夜間徘徊が増えた利用者に対し、日中の活動量を増やす、夕食後の入浴を取り入れるなど、生活リズムの再設計を提案できます。

4|生活環境の安全調整という専門性

専門性

介護士はベッド高さ、歩行導線、補助具の設置といった生活環境を日常的に調整し、安全性を確認する力を持っています。福祉用具専門員が選んだ用具を、実際に使いながら最適化するのは介護士です。

地域での活躍

  • 退院後の事故や再入院は、環境の不備から起こることが多いもの。
  • 介護士が現場で得たフィードバックをケアマネや医師に戻すことで、環境起因のリスクを未然に防ぐことができます。

5|日常会話から意思・希望を拾う専門性

専門性

介護士は利用者や家族と最も多く会話を重ねるため、日常の雑談から**「家に帰りたい」「病院には行きたくない」**といった希望を拾い上げることができます。

地域での活躍

  • ACP(人生会議)を推進するうえで、医師やケアマネが聞き取れるのは限られた面談時間です。
  • 介護士が生活の中で得た希望を短く整理して共有すれば、地域全体の意思決定が速やかになります。
  • これは「生活の声を医療に翻訳する」役割であり、本人希望に沿った治療や看取りを実現する力となります。

6|集団生活の調整という専門性

専門性

介護士は、施設やデイサービスなど集団での暮らしの場を整える役割を担います。利用者同士の人間関係の摩擦や小さなトラブルを日常的に調整できる技能は、他職種にはありません。

地域での活躍

  • グループホームや多床室では、相性や行動パターンを見極め、人間関係の温度管理を行うことが必要です。
  • 介護士はこうした調整力を生かして、地域における共同生活を円滑に保つ存在として活躍できます。

地域の輪を温める専門職として

介護士は、誰よりも生活に近い位置で利用者を支えています。その視点から生まれる提案は、各専門職それぞれの意見をつなぎ合わせ、より利用者に寄り添った計画立案として地域医療連携の中でも大きな力を発揮します。これは、日常に立ち会い、すべての専門職と有機的につながる介護士だからこそ担える役割です。

人の日常に寄り添う専門家として、介護士には「人間関係の温度管理」から一歩進み、「利用者を見守る地域の輪」そのものの温度を整える存在としての活躍が期待されています。


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