価値が最大化するのは“施設の外”
栄養は治療と生活を橋渡しする土台です。施設で整った食事も、家では「買えない・作れない・食べられない」という段差が残ることがあります。この段差を少しずつ埋めるために、地域の中で“食べられる環境”を設計・運用していく役割は、管理栄養士が担っていくことを期待されています。
本稿では、自治体主導で進めることを前提に、現場で動かしやすい形でポイントを整理していきます。
目次
役割① 在宅高齢者への訪問栄養支援
- 生活実態のアセスメント:冷蔵庫・戸棚、調理家電、買い物動線、嚥下・口腔、服薬タイミングを生活視点で確認していきましょう。
- 食事設計の現実化:1日3食が難しければ「2食+高栄養間食」にする、調理が大変であれば「レンジ主菜+常温副菜」にするなど、できる方法に落としていきましょう。
- 家族介護者の支援:買い置きリスト、盛り付け簡略化、嚥下段階の形態例、コンビニ活用のコツをA4一枚で共有していきましょう。
- モニタリング:食事写真と体重の簡易記録を提案し、悪化の兆しを早めに拾っていきましょう。
役割② 地域包括・ケアマネ会議での“栄養目標化”
例えば、ある利用者に「塩分6g/日」という数値目標があっても、実現する方法が見えていなければ結果につながりにくいです。そこで管理栄養士に求められる役割は、買い物では何を選ぶか、調理ではどのように味つけや調理法を工夫するかなど、日々の行動に置き換えて伝えていくことです。あわせて、食事の様子(摂取量・ムセ・汁物の回数など)を写真と短いメモで共有していくと、医療や介護の側面からも新たな気づきが得られ、食事の調整や医療・介護計画の見直しへとつながりやすくなります。
進め方の目安:評価→目標→担当→共有→見直しの小さなサイクルにしていきましょう(例:2週間だけ“汁物1日1回・しょうゆ計量・ひと口サイズ化”を試し、ムセ回数と食事時間で確認します)。
役割③ 医科・歯科・リハとつくる“経口維持ライン”
- 歯科・口腔:義歯調整や口腔乾燥の情報を食形態へ反映していきましょう。
- リハ(PT/OT/ST):嚥下体操や食事姿勢訓練の家庭版を共有し、食前5分のルーティンにしていきましょう。
- 看護:服薬・発熱・便通・浮腫などの所見が栄養に及ぼす影響を、日々の記録と栄養連絡票で橋渡ししていきましょう。
役割④ 自治体主導で進める「スーパー/コンビニ × 栄養支援」
全国では、自治体が中心となり、スーパーやコンビニと協力して店内スペースや棚を活用し、健康相談・食育・見守りへつなげていく取り組みが見られています。管理栄養士が食品の選び方や食形態の提案、簡便調理の実演、短時間の栄養相談を担当することで、低栄養・フレイル予防の到達率向上が期待できます。
メニュー例(最小構成)
- “レンジで完結”の10SKU棚:主菜5・副菜3・主食2で構成し、たんぱく質の目安/“やわらかさ(目安)”表示(例:スプーンでつぶせる・歯ぐきで噛める)/アレルギー表記をポップで示していきましょう。必要に応じてIDDSIの参考レベル(7EC〜6/5〜4)を小さく併記すると選びやすくなります。
- 店内ミニ相談(各回30分):体重や食事量を簡単に聞き取り、**「1日2食+高栄養間食」**など“できる形”へ置き換えて、持ち帰り用カードをお渡ししていきましょう。
- 簡便調理の実演(10分):「電子レンジ+パックごはん+やわらか主菜」で1食が完成する流れを見せ、嚥下段階の注意点もひと言添えていきましょう。
進め方の目安:目的とKPI(相談件数・棚販売・再来店意向)をまとめ、8週間のパイロットとして月2回の相談+棚運用を行ってみてください。売れ筋の味・硬さ・容量を微調整し、継続や拡張を検討していきましょう。
役割⑤ 社会的処方と孤立対策(通いの場・栄養カフェ)
- 通いの場:運動だけでなく、たんぱく質と水分を意識した軽食・試食会をセットにしていきましょう。
- 栄養カフェ/シニア食堂:低栄養予防の講話、調理デモ、配食や買い物支援の案内を組み合わせ、個別相談の入口に育てていきましょう。
- 男性高齢者・独居への工夫:包丁不要の“のせるだけレシピ”などで参加のハードルを下げていきましょう。
役割⑥ 地域の“共通ラベル”づくり(食形態・嚥下)
- 食形態・嚥下コードの共有:事業所・配食・病院で同じ基準を使い、入退院や通所の継ぎ目を減らしていきましょう。
- 疾患別の目安:腎・心・糖など厳密管理が必要な方は、医師方針を起点に地域で守るルールを簡潔に整理していきましょう。
- アレルギー対応:表示・調理ライン・交差汚染の基本を、地域研修で底上げしていきましょう。
役割⑦ 災害時の栄養支援体制
- 避難所メニューの雛形:常温主食+たんぱく源+野菜ジュース/とろみ剤/アレルギー対応食の配備計画を持っておくと安心です。
- 配付オペレーション:嚥下・アレルギー・慢性疾患の優先配付ルートは、年1回の訓練で確認しておきましょう。
- 在宅避難者支援:近隣店舗と協定を結ぶ場合は、自治体側の手続きに沿って高栄養補助食の優先提供や見守りの流れを整理しておきましょう。
役割⑧ データと評価(地域KPI)
- 指標例:低栄養リスク割合、体重測定実施率、食事写真提出率、通いの場参加率、配食見守り通報件数、再入院率などを候補にしてみてください。
- 測定の仕組み:地域の測定会(月1)と在宅の簡易記録を組み合わせ、**“毎週すべて”ではなく“要所を確実に”**集めていきましょう。
- 個人情報:共有範囲と同意をあらかじめ明確にし、必要最小限の情報に限定していきましょう。
見守り体制に関する補足:通報ルールの構築や窓口の周知はケアマネ・地域包括・事業所側の役割です。管理栄養士は共有された連絡先・手順を把握し、栄養の通報トリガー(摂取<50%が3日、体重-1kg/週、ムセ急増等)を栄養連絡票に明記して、該当時に定められた窓口へ報告していきましょう。
施設の外に“食のライン”を敷いていきましょう
管理栄養士の地域内役割は、在宅・商業・医療・福祉・防災を**一本の“食支援ライン”**に束ねていくことだと考えます。自治体主導の枠組みに参加し、評価(KPI)→小さく実装→定例化の順で進めていきましょう。こうした取り組みが積み重なるほど、地域医療/介護の現場は食を中心に滑らかにつながり、みんなで協力して目指す形になっていくと思います。